株式会社キッズプレート代表の 茂出木謙太郎(デジタルハリウッド大学 専任准教授)は、2026年9月6日(日)〜9日(水)に富山県立大学 射水キャンパスで開催された 第31回日本バーチャルリアリティ学会大会 で、「プロテウス効果とアバタデザイン ─ 属人性の扱いを分岐点とする二類型の作用様態」を発表しました。本大会は日本バーチャルリアリティ学会の設立30周年を記念する大会で、初の4日間開催として富山で初めて実施されました。
- 大会: 第31回日本バーチャルリアリティ学会大会
- 会期: 2026年9月6日(日)〜9日(水)
- 会場: 富山県立大学 射水キャンパス(富山県射水市黒河5180)
- 発表: 9月8日(火)9:00〜9:35 口頭発表セッション「ユーザインタフェース2」(座長:前川和純/東京大学)
- 講演番号: 3A1-07
- 発表形式: 2分半の登壇発表とポスター発表
アバタの外観を運用から切り離さない
発表の出発点は、アバタの外観設計がマンガ・アニメ由来のキャラクタ外観制作論の延長として扱われやすい、という問題意識です。髪型・衣装・配色・シルエット・表情差分を整える技法は蓄積されている一方で、その外観が操作方式、身体化、非言語表現、運用範囲、オペレータの交代可能性とどう結びつくかは十分に論じられてきませんでした。
本発表では、外観と様相だけを設計する行為を「アバタ・ビジュアルデザイン」、外観に加えて機能・操作性・トラッキング・表情・発話・ギミック・運用体制まで含めて設計する行為を「アバタデザイン」と呼び分け、アバタをヒューマンインタフェース上の設計対象として位置づけました。2026年に発行された国際規格 ISO/IEC 24216-1:2026 が、アバタの外観だけでなく身体トラッキング、表情、ジェスチャ、身体所有感、アバタ管理、人格の扱いまでをユーザインタフェース要件として整理している点も、この立場の参照点としています。
属人性の扱いが設計原理を分ける
分岐点に置いたのは「属人性」です。オペレータ固有の声、話し方、即興性、経験、反応速度、ユーモア、人格的魅力など、特定個人に結びついて知覚される性質を指します。属人性を価値の源泉として前面化する設計を「属人型」、役割や世界観の中に取り込んで個人差を見えにくくする設計を「汎用型」と呼び、属人型の事例として VTuber の兎田ぺこら、汎用型の事例として「タートル・トーク・ウィズ・クラッシュ」を分析しました。
| 設計上の問い | 汎用型 | 属人型 |
|---|---|---|
| オペレータの継続性 | 交代を前提とする | 特定個人の継続を前提とする |
| カスタマとの関係性 | 単発・短時間の体験 | 継続的接触・関係蓄積 |
| 個性の効用 | ばらつきとして抑制・吸収 | 魅力・唯一性として顕在化 |
| 作用様態 | 一方向に制約されたプロテウス効果(役割同調) | 外観と人格が相互に再定義される双方向的作用 |
| 設計リスク | オペレータ差による品質の揺れ | オペレータ離脱による価値毀損 |
属人型では、可愛らしい外観が現実空間では許容されにくい振る舞いを可能にする免罪符として働き、その振る舞いがさらに外観の記号的意味を更新していきます。初期ビジュアルは完成された人格ではなく、配信中の即興や失敗を受け止める可塑的な余白として機能します。
汎用型では、口調・価値観・知識体系を明文化する「枠の明確な定義」、比較が起きにくい「体験の単発性」、名前など個人識別情報を出さない「オペレータの不可視化」という三つの条件によって、個人差がキャラクタの一貫性の内部へ編入されます。ここでいう吸収は個性の消去ではなく、個人差をサービス品質へ変換する運用設計上の処理です。
三層構造による設計指針
考察では、アバタデザインの本質を内層・中間層・外層の整合性として整理し、ISO/IEC 24216-1:2026 の要件区分との対応を示しました。
- 内層: サービス目的・関係性・役割
- 中間層: 操作方式・身体化・表情・非言語表現
- 外層: 外観・様式・視覚記号
同じ「かわいい」「親しみやすい」外観であっても、汎用型では品質の均一化を支える記号となり、属人型では人格的継続性を蓄積する記号となります。アバタデザインの成否は設計原理の優劣ではなく、サービス目的と設計が整合しているかどうかに依存する、というのが本発表の結論です。今後の課題としては、二類型に収まらない中間類型の検証と、生成AIがオペレータを代替する状況で属人性の継承・複製をどう扱うかを挙げています。
実務との関係
弊社は、複数の相談員が交代でアバターを運用するバーチャルほっとラインと、キャラクター IP のアバターデザインを手がけるAI コンテンツ制作の双方に関わっています。本発表の二類型は、こうした現場で繰り返し現れる設計上の分岐を整理したもので、2023年の第28回大会での発表「メタバース時代のアバターデザインの最適化」(3D1-09)に続く検討です。
なお本サイトのアバターデザイン論では、本発表でいう「汎用型」を「サービス型」と表記しています。指す内容は同じです。
→ VTuberのアバタは、なぜ運用とともに育つのか──コミック工学研究会で発表した研究の話